キュッ、って鳴った音だけが、ごほうびだった

《掃除って、心もきれいになるって言うけれど——
じゃあ、なんで私は
こんな気持ちになるの?》


暑くなってくると、気になるシンクの汚れ。
ジメジメした季節、食中毒も怖い。

スポンジで、ひたすら擦る。
厄介な角。段差。
一晩で、ぬるっとする。

クレンザーをつけて、また擦る。
さっきよりも、ざらざらする。

磨く、というより、
こすり落とす。

いつもの作業。
いつもの気持ち。


掃除をすれば、心もきれいになる?

そう聞くたび、
「なんでいつも私ばっかり」
と呟きながら、今日も私は擦る。

心は、どんどん濁っていく。


それでも、

流す音は激しくて、
水しぶきが跳ねて、
冷たさが腕まで濡らしていく。

水の冷たさが気持ち良い。

その瞬間だけは、
少し救われる。


指先で、シンクを強めに撫でる。
キュッ。
静かな音が返ってくる。

「きれいになりましたよ」
誰にも言われない、その合図。

肩をあげながら、
大きく息を吸い込んだ。

少しだけ、
濁りが静かに、
流れていったような気がした。



きれいになったのは、シンクだけじゃないと思うんです。
きっと、あなたの中にも「キュッ」って音が響いたはず。
それが、今日の合図。
水の冷たさが、少しでもあなたを癒してくれていますように。
—— 雨野いと

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