なぜ『八ヶ月』を書こうと思ったのか

「なぜこの物語を書こうと思ったのか」
たまに聞かれますが、正直に言えば――理由は、ありません。

月並みかもしれませんが、ただ、なぜか「書きたい」と思ったから。

小説を書いたこともなかったし、書き方のお作法も知りませんでした。
noteの使い方も、もちろん分からなくて。

でも、書き溜めていくうちに、
「これ、どこかに置いてみようかな」と思うようになって。
それが、この物語の始まりです。


大人って、なんだか息苦しいですよね。
でも、みんな一生懸命生きてる。

だから、せめて物語の中では、少しだけ報われてほしい。
最初は、そんなふうに思っていました。


どんな人が登場したらいいだろう、と考えたとき、
徹と麻衣の姿が浮かびました。

頭の中に映像が流れていて、
私はただ、それを書きとめているだけのような感覚でした。


最初は「甘い恋愛ものになるのかな」と思ったのですが、
ふたりはまったく言うことを聞いてくれませんでした。

徹は何かあるとすぐに自嘲気味なことを言い、
麻衣は、自分を整えるように仮面をかぶる。

「プロットというものが必要らしい」と気づいて、
真似事のように作ってみたこともありますが、
気づけば毎回、違う方向へ――。

徹に海へ行ってほしいと思っても、
なぜか公園で缶コーヒーを飲んでいる。

麻衣におしゃれなバーが似合うかなと思っても、
気づけばぬいぐるみと話をしていたりする。


今は、プロットはだいたい諦めています。

細かいことは決めずに、
「この週は風が吹く」「この週は息ができる」
そのくらいの方向性だけ。


高瀬凪も、佐野柚葉も、最初は登場する予定すらありませんでした。

でも、いつの間にかそこにいて、
凪は徹をいじっていて、柚葉は麻衣に憧れている。

「じゃあ……そこに居ていいよ」
そんなふうに思ったら、名前も自然と決まっていました。


この先も、きっと誰かが現れるんだろうな、と思っていた頃、
映像が流れて、しゃべりだしたのが第十五話です。

👉【徹編】第十五話『同じ日、それぞれの夜』
👉【麻衣編】第十五話『まっすぐで、ちょっと危なっかしいあの子へ』

ここも、ひとつの自己紹介だったのかもしれません。

でも、そのまま見ていると、
ああ、しっかり物語になっているんだな、と思いました。

徹は、待ち続けて、寂しい思いをして、
それでも相手を許している。

麻衣は、柚葉の少し危なっかしい視線を、
ちゃんと受け止めて見守っている。

そうやってお互いに影響し合いながら、
人は変わっていくんだなあって、
書きながら教えられた気がしました。

もしまだ読んでいない方がいたら、覗いてみてください。
ここから、二人の物語がすこしだけ深くなる気がしています。


そんなふうに、私はいつも登場人物たちに振り回されながら、
でもどこかで信じて、彼らの動きを見守って書いています。

お作法も知らずに始めた物語ですが、
読んでくれる人がいるなら――
それだけで、きっと続けていける気がします。


最終回は、もう大体書いてあります。

でも、そこにたどり着けるかどうかは、わかりません。

徹と麻衣がどう動くかによって、
物語はきっと、また別の景色を見せてくれるから。

そして結局、「書き直した」みたいなことになるんでしょうね。


🕊️ 編集後記

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

この「裏話」シリーズは、毎週か隔週くらいのペースで、
作品の裏側や感じたことを静かに綴っていけたらと思っています。

物語とともに、少しずつ、何かが届いていきますように。

あなたが深く息ができますように
―― 雨野いと


✎ 追伸

どうしても長くなる物語です。
そして、ほかのエッセイや小さな話も載せていくと、ちょっと読みにくいなと感じました。

いま、マガジンを整理しています。
そろそろ片付いてきたかな?ときどき、のぞいてみてくださいね。

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