八ヶ月

【徹編】第四話 苦いだけの時間

《特別なことは、今日もきっと起きない。……起こさないようにしているだけかもしれない。》夕べは寝たのか寝ないのかよくわからない夜だった。明け方の新聞配達のバイクの音でソファーに座って、そのままずっとそこにいた。いつものカフェ。……いや、“喫茶...
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【麻衣編】第三話 評価の先にあるもの

《嬉しいけど、でも…》一日の滑り出しは何も問題がなかった。「いやいやいやいや、すごく良かったです。こちらとしては大満足です!」クライアントは自分の部下の肩をバシバシ叩きながら、ずっと笑っていた。クライアントの言葉に、麻衣は笑顔で頷いた。でも...
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【徹編】第三話 取材という言葉

《人と繋がりたかった。そして僕は今…》「取材?」それが驚きだったのか、緊張だったのか、自分でもよくわからない。肩に変な力が入って息が深く吸えない気がした。立っているのか、いないのか、足元がふわふわしている。物を書くのは、嫌いじゃない。でも、...
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【麻衣編】第二話 ルイボスティーの午後

《“もう恋愛はしなくていい”。ふと、そんな言葉が浮かぶ午後だった。ぬるくなったルイボスティーと、吹き込む風と、胸の中の小さな空白。ただそれだけの時間に、今日は少しだけ意味があった気がする。》いつものカフェ、いつもの椅子、いつものカップ。そし...
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【徹編】第二話「カフェに行かなかった日」

《ただ、カフェに行かなかった。それだけのことが、思いがけず一日を揺らすことがある。いつも通りから少し外れた、ほんの小さな選択。誰にも知られず、誰にも届かないけれど、自分だけは、静かにその余韻の中にいた。》午後の風は、思っていたよりも冷たかっ...
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『八ヶ月』第一話:ふたりの午後

《木のテーブルに差し込む午後の日差し。誰もが見逃してしまいそうな、ただの時間のなかに、少しだけ、何かが始まりかけている。》『八ヶ月』、始まりの午後。ふたりの視点を並べてお届けします。中原徹編 『午後の光とノート』淡々とした午後。毎日だいたい...
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『八ヶ月』について

❖ これは、ふたりの視点で綴られる、ある冬までの物語「八ヶ月」は、中原徹と早川麻衣というふたりの主人公が、それぞれの視点から綴る物語です。元編集者と、女性デザイナー。偶然の出会いから始まった関係が、季節とともに、少しずつ変化していきます。❖...