八ヶ月

【麻衣編】第十三話 “いつも”から少し出たら

《風が、少しだけ気持ちよかった。カフェで久しぶりに話した。“いつも”を少しだけ踏み出しただけなのに、見える景色が、ちょっとだけ変わっていた。》シャツと肌のあいだに湿った空気が入り込む。それが暑かったのか、暑くなかったのか。首筋にエアコンの風...
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【徹編】第十三話 苦いコーヒーと、あなたの笑顔

《調子が今ひとつだなと思う日。でも、そんな日が、決して「悪い日」になるとは限らない。思ってもみなかった出来事が、そっと訪れることもあるから。》特に理由はないけど、朝からずっと、うまく乗れていない。いつもの椅子のはずなのに、今日はなんだか硬く...
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スタンプだけ返して、夜が終わる

《梅雨の夜、テレビの笑い声はどこか乾いていました。》洗い物も終わって、お風呂にも入った。梅雨の夜。湿気のある空気が、少しひんやりする。一人の時間。私はキッチンにいる。ここが好きなのか、好きじゃないのかは、よくわからない。リビングからはテレビ...
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【麻衣編】第十二話 言葉を浴びすぎた日

《今日は一日、言いたいことが言えなかった。》朝はまだ、ひんやりとした空気だった。寒いってほどじゃないけど、何か一枚、羽織りたくなる。街の音にも、午前中らしい余裕と慌ただしさがあって、少し活気がある。今日は、朝から調子がよかった。顔色も悪くな...
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【徹編】第十二話 すれ違いのあとで

《誰にも見られていない時間。誰にも見られていない自分。書くことを諦めかけた男が、ある朝すれ違ったのは、ひとりの女性と、まぶしすぎる青空でした。》朝の散歩、というより……ただ、歩いていただけだった。目的があるわけじゃない。意味があったのかと訊...
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【麻衣編】第十一話 読みたくて、読めなくて

《見ないようにしてるだけで、本当は、もう気づいてるのかもしれない》夕方。雑誌社の人が来た。何かと思ったら、先日の原稿がもうできたとのこと。とても早いのね。すぐに見たい気もあるけれど、なんとなくそれを見ることが怖い気がした。「内容はこんな感じ...
八ヶ月

【徹編】第十一話 CDと弁当と晴れの音

《ホコリの中でキラキラしていたのは、CDと、少し昔の僕でした。》あれからずっと落ち着かない。何していいのか分からずに片付けを始めたら、収拾つかなくなった。「お疲れ様でーす!」後輩くんの、少し間の抜けた声がする。「おぉ、こっちだよ、こっち」ご...
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【徹編】第十話 ラブリーが流れた夜

《ラブリーが流れた夜― ひとりの部屋に、記憶が戻ってくる》今朝は、少し早く目が覚めた。再取材の予定があるからだろうか。まあ、多分、緊張してるんだろう。僕はそんなに強くもないし。肩書きのある自分として、慣れていたはずの取材。でも今は“フリーラ...
八ヶ月

【麻衣編】第十話「別世界」という言葉

《優しい言葉が、心の温度を奪っていくことってありますよね》今日は、再取材の日。話す内容はもうほとんど決まってるし、原稿もメールで途中まで見せてもらっている。イメージ通りだった。私の言葉が、ちゃんと文字になっていて、少し、うれしかった、うん。...
八ヶ月

【麻衣編】第九話 いつも通りに

《ふと浮かんでしまった「あの人の顔」に、心が少しだけ揺れていた》取材が終わって、また“いつもの日常”が戻ってきた。オフィスの空気も、通勤路の景色も、スタッフとのやりとりも——全部、変わらない“いつもの感じ”。でも、少しだけ違ったのは、スマホ...