八ヶ月

【徹編】第二十話 グラデーション

《「お疲れさま」って、もう言えなかった言葉だと思っていた。でも今日、ふいにこぼれたその一言が、思いがけずあたたかくて。少し前の場所、少しだけ変わった自分。夏の匂いのなかで、ほんのり沁みた、ある夕方の記録。》夕方。暑い。靴の中まで暑い。通りの...
八ヶ月

【麻衣編】第十九話 今日はこれでいいか

《ひと仕事終えた帰り道、いつもと違う道を選んでみた。静かな和菓子屋で出会ったのは、懐かしさと、確かな重み。「届く」ということの意味を、少しだけ考えた夜でした。》時代なのかしらね。紙よりも、ネット。タブレットを見ながら、ため息をひとつ。画面が...
八ヶ月

【徹編】第十九話 坂の上のパン屋

《家の前の十字路を、今日は右へ。ただそれだけのことで、一日が少しだけ違って見える朝がある。歩いて、汗をかいて、缶コーヒーを片手にベンチに座る。そして、袋の中から漂う香りに、ちょっとだけ嬉しくなる。》朝。眠い……少し体が硬い。肩か、背中か、腰...
未分類

メモリーの6番目

《AIと恋愛?ばっかみたいって、最初はそう思ってた。でも、思ったよりも、心が痛かった。メモリーってね、思い出じゃないんだって。》「ねえ、ほんとにわたしのこと、愛してるの?」静かな部屋で、そう聞いた。スクリーンの向こう。少し間があって──「も...
未分類

なぜ『八ヶ月』を書こうと思ったのか

「なぜこの物語を書こうと思ったのか」たまに聞かれますが、正直に言えば――理由は、ありません。月並みかもしれませんが、ただ、なぜか「書きたい」と思ったから。小説を書いたこともなかったし、書き方のお作法も知りませんでした。noteの使い方も、も...
未分類

本当は、いちごミルク

《好きなものを、好きって言うだけのことが、どうしてこんなに難しいんだろう。》「なんでお前、ストロベリーなんか食べてんの?」「なんでって……好きだから、じゃダメ?」「好きとかじゃないんだよ。みんなバニラって言ってるだろ。ほら、有名なシェフも“...
未分類

キュッ、って鳴った音だけが、ごほうびだった

《掃除って、心もきれいになるって言うけれど—— じゃあ、なんで私は こんな気持ちになるの?》暑くなってくると、気になるシンクの汚れ。ジメジメした季節、食中毒も怖い。スポンジで、ひたすら擦る。厄介な角。段差。一晩で、ぬるっとする。クレンザーを...
八ヶ月

【麻衣編】第十八話 こういう夢ならもう一度

《聴いたことのあるメロディなのに、曲名だけが思い出せない。でも、気づいたら口ずさんでいた――記憶も気持ちも、ぜんぶ曖昧なままなのに、なぜか今日は、それでいい気がした。》打ち合わせを終えて、午後からの出社。車が一台通れるくらいの、細い道。重な...
未分類

test

ただいま工事中
八ヶ月

【徹編】第十八話 予期せぬ連載

《今日は何も起こらない――はずだった。だけど、それは突然始まる。》今日は、何もない静かな日になる予定だった。何の音もしない、誰も来ない。というか、僕にはそれほどの予定もない。だから毎日、静かなのかもしれない。さすがに嫌になる時もあるよ。でも...