八ヶ月

【徹編】第二三話 ズレた時計

《ふいに名前を呼ばれた。覚えていない顔と、思い出しかけた声。“うまくいかなかった”という言葉を、笑いながら口にする自分がいた。それだけのことだ、と言い聞かせながら、なんでもない風景のなかで、自分の「ずれた時間」と向き合う午後。》駅前を、なん...
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【麻衣編】おまけの話 みたらしとお茶と、静かな夜

《ほんの少しだけ、昨日の続き。湯気の向こうにある、静かな満たされ方の話です。》お茶のいい香りがする。湯気がふわっと立つ。その湯気を、そっと気をつけて、胸いっぱいに吸い込んだ。ゆっくりと目を閉じる。からだの奥まで、やさしい香りが広がっていく。...
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【麻衣編】第二二話 走った!

《誰かに言われて気づくことがある。自分の変化は、自分がいちばん気づきにくい。でも、たしかに。どこかのタイミングで、足が前に出るようになったのかもしれない。そんな、ひとつの夜の話です。》「麻衣さん、ちょっと変わりましたよね」柚葉が、報告の合間...
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【徹編】第二二話 181

《誰かが読むなんて思っていなかった。だから、「数字」が動いた朝、戸惑って、少しだけ怖くなった。何かが起きたのかもしれない。起きたのだとしたら、それは――》朝。いつもの作業に、「ブログを開く」が加わった。コーヒーを飲みながら、カチャカチャ。「...
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【麻衣編】第二一話 まだ足りない、けれどある

《「足りない」という感覚は、ときに「ある」ことの証なのかもしれません。手応えがあっても、何かが抜け落ちるような午後。進んでいくために、振り返らないと決めた日。》何かが、ひとつだけ足りない。そう思ったのは、スマホを確認しているときだった。一日...
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【徹編】第二一話 たった"2"

──創作大賞が熱いですね。書くということには、どうしても「比べる」がついてきます。誰かに届けたい、と思って書いたはずなのに、いつの間にか──どれだけ届いたか、どう評価されたか、どのくらい数字が出たか。気づかないうちに、目的がすり替わってしま...
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斜めのまま、生きている

裏話的な八ヶ月通信、第2回。何を書こうかと思ったのですが――なんとか徹編20話、麻衣編20話まで来ることができました。ありがとうございます。note界隈では、創作大賞が熱いですね。皆さん、すごい熱で書いていらっしゃる。何かを伝えたい。認めら...
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暑いような、だるいような、冷やし中華が似合わない午後

《外は真夏のような暑さ。けれど、梅雨はまだ終わっていないらしい。体はだるくて、冷やし中華のカラフルさに、気持ちが追いつかない——そんな土曜日の午後の話。》梅雨も終わったのか、終わってないのか。どんよりと雲がかかった空と、その隙間からは、夏を...
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【麻衣編】第二十話 通知を切った日

《いつ鳴るかわからない通知音に、気づかないうちに肩に力が入っていた。だから、切った。スマホの設定を変えるだけなのに、それだけで少し、息がしやすくなった——。季節の気配と、記憶の片隅に触れる、ある夏の日の話。》朝の空気が、まとわりつくように重...
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私の夏は、いつも寒い

《外は暑いのに、私の夏は、毎年ずっと寒いままです。エアコンの効いた職場、黙って設定温度を下げる家族。「寒い」と言えない場所が、こんなにも多いとは思わなかった——》外は猛暑。天気予報では「今日も全国的に35度以上の危険な暑さ」なんて言っていた...