【徹編】第十一話 CDと弁当と晴れの音

《ホコリの中でキラキラしていたのは、CDと、少し昔の僕でした。》


あれからずっと落ち着かない。
何していいのか分からずに片付けを始めたら、収拾つかなくなった。


「お疲れ様でーす!」

後輩くんの、少し間の抜けた声がする。

「おぉ、こっちだよ、こっち」
ごちゃごちゃした部屋の奥から、顔を出す。

「どーしたんですかこれ、強盗ですか? 夜逃げでもするんですか?」

お前ねぇ、もう少し敬意とか持ちなさいよ。

「先輩のことは尊敬してますよ。だから来るんじゃないですか」

……そんな素直に言われると、どうしていいのか分からない。
下を向いたまま、奥の方へ、片付けに逃げる。
少し顔が緩んでいたかもしれない。

「あ、先輩、手伝いますよ。夜逃げの準備」

だから……(苦笑い)
こいつが来るとペースが狂うけど、嫌いじゃない。
この、学生の、先輩後輩みたいなノリ。


「うわ、なんですかこれ」

CDの入ったダンボールが出てきた。
埃の匂いがする。
おばあちゃんちに行った時の、誰も使ってなかった部屋の匂い。

「ふるっ、これ昔のタワレコの袋ですか?」
少し舞い上がった埃を吸い込んだのか、くしゃみをしてた。

あぁ、まだあったのか。
“これからはUKロックだ!”って、ポップにつられて買ったなぁ。
ジャケ買い、なんて言って今の人に分かるのか。

中身も分からずに、ジャケットの雰囲気だけ。
あとはポップにその気にさせられて。
買ったけど、聞いてないアルバムもあった、はず。

ダメダメな営業時代、彼女の買い物につきあって行ったこともある。
ピチカート5は、そのとき初めて知った。
オシャレなフリして、少し聞いた。
話も合わせた方がいいだろと思って。

他の人とライブ行ってたのわかった時は、悲しかったなぁ。
でも、それでも、そのCDは捨てられなかったんだよな。
音楽には何の罪もないしね。
まぁ、そういうことにしておいて……


「うわっ」

また後輩くんが何かしてる。
こらこら、静かに動かしなさいよ。ダンボール、破れたじゃない。

手伝っているのか、散らかしているのか。
後輩くんには、こんなゴミでも珍しいものがたくさんあるんだろう。
目がキラキラしている。
ホコリもキラキラしてる。


「昼でも食うか?」

「あ、弁当買ってきてあります」

優しいんだよな、こいつは。
好きだよ、後輩くん。

いつもの缶コーヒーを渡す。
手にした缶が、少し温かい。


机の隅を空けて、弁当を広げる。
片付けしてて、朝ごはんを食べ損なっている。

すごくいい匂い。
卵焼きが甘い。
それを口に入れてから、ふと思う。

「なぁ、俺ってどんな風に見える?」
人から見た自分を、知りたくなった。

「いい人、ですかね。あ、でも疲れてる感じが出てます」

こいつは優しいんだよな?(笑)
でも、そういうふうに見えてるのか。
まぁ確かに、元気が有り余ってるようには見えないよね。


「早川さんですか?」

いきなり言われて、どう答えを返していいか分からない。

「先輩、気になってますよね。見たら分かります」

……

僕は、弁当を見つめる。
食べる手が止まる。

なんだろう、うまく言葉が見つからない。
箸を握ったまま、時間だけが流れる。

視線を上げると、後輩くんと目が合う。
何か気まずい。

「醤油いるか?」
僕は話を逸らした。

見透かされているのか、僕が分かりやすいのか。

「原稿を読んだじゃないですか。なんかちょっと熱が入ってるかなっていうか、のれてる時の感じでしたよ」

嬉しいんだけどなんか複雑、いや嬉しいんだよ。
でも、やっぱり複雑。


「じゃあ、帰りますね!」

あらかた片付いた。
後輩くん、今日はけっこう助かった。

何でも、そつなくこなす。
気もきく。
たぶん、有能って後輩くんみたいな人のことを言うんだろうな。

「なんでこんな地方にいるだろうね、あいつは」
自分が夢を持って東京に出て行ったことを思い出す。
あれは、もうずいぶん前の話だ。
まさかこんな部屋にいるようになるとは、ねぇ。


「CDってなんか綺麗ですよね」
そんなことを言いながら、光を当ててキラキラさせてた。

「そんなにいいか?」
のぞき込んでみた。
七色の反射の中に、疲れたおっさんがいた。

欲しいCDがあったらしく、何枚か持たせた。
ノートパソコンで聞くらしい。
そっか、ミニコンポなんてもう持ってないか。

だよな。
僕も、持ってないな……

時代を感じるな。
三段とか四段とか五段とか。
お金があるうちの子は、すごいの持ってたよな。

僕が持ってたのは三段に見えるけど、一つだったやつ。
それでも、あれは宝物だった。

CDからテープへダビングした。
最初は、しゃべったらその声も録音されてしまうのかと思って、静かに息をしていた。
今思うと、ちょっと笑える。


片付けは、終わらない。
僕の中では、たぶんまだ。
終わるときがくるのか、こないのか。
どうなんだろうねぇ。


慌ただしい一日だったなぁ。
慌ただしいって感じてしまうのは、普段の僕がゆっくりだから。

いつの間にか、勢いみたいなものがなくなっている。
それは、自覚してる。

ラジオから、明日の天気が聞こえてくる。

晴れらしい。
ここのところ、ずっと曇ってたからなぁ。

部屋の隅に差した光に、まだ少しだけホコリが舞っていた。

そうか、晴れか。

……僕は、晴れるのかなぁ。

両手を伸ばして、伸びをする。

「いててて……」

ラジオは、次の曲を流し始めていた。

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