
《ホコリの中でキラキラしていたのは、CDと、少し昔の僕でした。》
あれからずっと落ち着かない。
何していいのか分からずに片付けを始めたら、収拾つかなくなった。
「お疲れ様でーす!」
後輩くんの、少し間の抜けた声がする。
「おぉ、こっちだよ、こっち」
ごちゃごちゃした部屋の奥から、顔を出す。
「どーしたんですかこれ、強盗ですか? 夜逃げでもするんですか?」
お前ねぇ、もう少し敬意とか持ちなさいよ。
「先輩のことは尊敬してますよ。だから来るんじゃないですか」
……そんな素直に言われると、どうしていいのか分からない。
下を向いたまま、奥の方へ、片付けに逃げる。
少し顔が緩んでいたかもしれない。
「あ、先輩、手伝いますよ。夜逃げの準備」
だから……(苦笑い)
こいつが来るとペースが狂うけど、嫌いじゃない。
この、学生の、先輩後輩みたいなノリ。
「うわ、なんですかこれ」
CDの入ったダンボールが出てきた。
埃の匂いがする。
おばあちゃんちに行った時の、誰も使ってなかった部屋の匂い。
「ふるっ、これ昔のタワレコの袋ですか?」
少し舞い上がった埃を吸い込んだのか、くしゃみをしてた。
あぁ、まだあったのか。
“これからはUKロックだ!”って、ポップにつられて買ったなぁ。
ジャケ買い、なんて言って今の人に分かるのか。
中身も分からずに、ジャケットの雰囲気だけ。
あとはポップにその気にさせられて。
買ったけど、聞いてないアルバムもあった、はず。
ダメダメな営業時代、彼女の買い物につきあって行ったこともある。
ピチカート5は、そのとき初めて知った。
オシャレなフリして、少し聞いた。
話も合わせた方がいいだろと思って。
他の人とライブ行ってたのわかった時は、悲しかったなぁ。
でも、それでも、そのCDは捨てられなかったんだよな。
音楽には何の罪もないしね。
まぁ、そういうことにしておいて……
「うわっ」
また後輩くんが何かしてる。
こらこら、静かに動かしなさいよ。ダンボール、破れたじゃない。
手伝っているのか、散らかしているのか。
後輩くんには、こんなゴミでも珍しいものがたくさんあるんだろう。
目がキラキラしている。
ホコリもキラキラしてる。
「昼でも食うか?」
「あ、弁当買ってきてあります」
優しいんだよな、こいつは。
好きだよ、後輩くん。
いつもの缶コーヒーを渡す。
手にした缶が、少し温かい。
机の隅を空けて、弁当を広げる。
片付けしてて、朝ごはんを食べ損なっている。
すごくいい匂い。
卵焼きが甘い。
それを口に入れてから、ふと思う。
「なぁ、俺ってどんな風に見える?」
人から見た自分を、知りたくなった。
「いい人、ですかね。あ、でも疲れてる感じが出てます」
こいつは優しいんだよな?(笑)
でも、そういうふうに見えてるのか。
まぁ確かに、元気が有り余ってるようには見えないよね。
「早川さんですか?」
いきなり言われて、どう答えを返していいか分からない。
「先輩、気になってますよね。見たら分かります」
……
僕は、弁当を見つめる。
食べる手が止まる。
なんだろう、うまく言葉が見つからない。
箸を握ったまま、時間だけが流れる。
視線を上げると、後輩くんと目が合う。
何か気まずい。
「醤油いるか?」
僕は話を逸らした。
見透かされているのか、僕が分かりやすいのか。
「原稿を読んだじゃないですか。なんかちょっと熱が入ってるかなっていうか、のれてる時の感じでしたよ」
嬉しいんだけどなんか複雑、いや嬉しいんだよ。
でも、やっぱり複雑。
「じゃあ、帰りますね!」
あらかた片付いた。
後輩くん、今日はけっこう助かった。
何でも、そつなくこなす。
気もきく。
たぶん、有能って後輩くんみたいな人のことを言うんだろうな。
「なんでこんな地方にいるだろうね、あいつは」
自分が夢を持って東京に出て行ったことを思い出す。
あれは、もうずいぶん前の話だ。
まさかこんな部屋にいるようになるとは、ねぇ。
「CDってなんか綺麗ですよね」
そんなことを言いながら、光を当ててキラキラさせてた。
「そんなにいいか?」
のぞき込んでみた。
七色の反射の中に、疲れたおっさんがいた。
欲しいCDがあったらしく、何枚か持たせた。
ノートパソコンで聞くらしい。
そっか、ミニコンポなんてもう持ってないか。
だよな。
僕も、持ってないな……
時代を感じるな。
三段とか四段とか五段とか。
お金があるうちの子は、すごいの持ってたよな。
僕が持ってたのは三段に見えるけど、一つだったやつ。
それでも、あれは宝物だった。
CDからテープへダビングした。
最初は、しゃべったらその声も録音されてしまうのかと思って、静かに息をしていた。
今思うと、ちょっと笑える。
片付けは、終わらない。
僕の中では、たぶんまだ。
終わるときがくるのか、こないのか。
どうなんだろうねぇ。
慌ただしい一日だったなぁ。
慌ただしいって感じてしまうのは、普段の僕がゆっくりだから。
いつの間にか、勢いみたいなものがなくなっている。
それは、自覚してる。
ラジオから、明日の天気が聞こえてくる。
晴れらしい。
ここのところ、ずっと曇ってたからなぁ。
部屋の隅に差した光に、まだ少しだけホコリが舞っていた。
そうか、晴れか。
……僕は、晴れるのかなぁ。
両手を伸ばして、伸びをする。
「いててて……」
ラジオは、次の曲を流し始めていた。

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