
《誰にも言わないまま、それでも僕は…》
朝はコンビニへ行った。
ドアの「ピンポーン」で少しだけ身体が反応した。
思ったより、自分が緊張していたみたいだ。
缶コーヒーを買うついでにビジネス雑誌を買った。
特集のタイトルは「伝わる聞き方・話し方」
なるほど、こんな質問の仕方があるのか…
人柄を引き出すって、こういう角度なら僕にも応用ができそうだ。
そう思いながら、気になった見出しの横に小さくメモをとる。
ページの紙は薄くてわずかに光沢があった。
まるで、めくられたくないように指先から逃げていった。
「どんな瞬間に自分を信じられましたか」
「日々のルーティンで、支えになっているものは?」
…なるほど。
小さく、けれど何度もうなずいた。
ありきたりといえばありきたりだけど参考になる。
僕の質問、ちょっとだけ堅かったかもしれないな。
ちなみにこんな質問されても僕は何も答えられないと思う。
僕はたぶん自分を信じてない。
日々のルーティンて言ったら缶コーヒーを飲むぐらい。
だめだよねこれじゃあ、なんて思ったけどまあそれが現実。
そして今もちょっとぬるくなってきた缶コーヒーを飲んでいる。
——今日はブラックだから、余計に苦く感じる。
やっぱり、結果を出してる人はすごいんだなぁ、なんて思いながら質問をまとめた。
ページをめくっていくと、若い人向けのチャレンジ特集が出てくる。
「起業するなら今!」「自分のメディアを持とう」
そんな見出しが並んでいて、どこかで見たことあるような、でも、どこかまぶしいような気がする。
その中に、ひときわ大きく載っていた。
“ブログで月収100万円!”
目を細めて読んでみると、SNSの拡散力、SEOの工夫、写真の撮り方、
そんなことが、いろいろと並んでいた。
「…僕も、ブログやってるけど、、人なんか来ませんよー」
ぽつりと呟いた声が、自分でも少し笑えてくる。
本気で稼ごうとしてるわけじゃない。
でも、やっぱり誰かに届いてほしくて書いてる。
そう思うと、この“月収100万”という言葉が、ちょっとだけ遠い。
遠いだけじゃない。やっぱり求めてないかもしれないな。
純粋に書いたもので勝負したいなんて、かっこいいこと言ってもしょうがないんだけど、なんかそんなことを思うんだ。
分かる人にはわかる。
そんなことを書いていきたい。
ページを閉じようとしたら、バサバサッと落としてしまった。
「はぁ…」
深く息を吐く。
表紙の角が、少しだけ手に引っかかった。
…人生を振り返ってみると、
なんだかいつも、“ブーム”のちょっとあとを歩いてきた気がする。
ブログが流行ったころには仕事が忙しくて手を出せず、
YouTubeが盛り上がってきたころには、自分の顔を出すなんて無理だと思っていた。
気がつくと、いつも、流行りものには一歩出遅れていた。
なんか、乗り遅れてばっかりの人生だなあ。
気づくと、そんな風に思ってしまう。
どこかでタイミングがあって、どこかでしっかりと乗れていたら、
何かが変わっていたのか、それとも結局変わらなかったのか。
それは今となっては分からないことだ。
乗り遅れて、転んで、上手くいかなくて、それも、僕なんだ。
それでもなんとか、誰にも迷惑をかけないように、
華々しくないけど、生きてきた。
それって、なんか…今日に限っては、それだけは認めたい気がする。
うまく言えないけど、
「それでも今ここにいる自分」に、小さくうなずきたくなった。
まあ乗り遅れたことには変わらないんだけどさ。
そう思いたい。
さて、一通りの準備は出来たはず。
ノートも確認した。
ボイスレコーダーの電池も……ふたを開けたとき、「パチン」と嫌な音がした。
少し爪がひっかかりながらも入れ替えて、録音も再チェックした。
事務的なことを全部終えたはずなのに、
まだ心がどこか落ち着かない。
やっぱり緊張しているのか、まだ。
たぶん、そうなんだろう。
この緊張とも付き合いは長いな、考えてみると。
多分、中学ぐらいの時には既にこんな感じだった。
教科書を読むときも、前に出て黒板に書くときも、運動会も…
僕はいつもどこかで緊張していた。
それが当たり前過ぎて…緊張してない自分を想像できない。
何か気分転換。
カフェ…行こうかと思ったけど、
今日はなんとなくやめておいた。
あのいつもの椅子に座ってしまったら、たぶんダメ。
これは分からないけどダメなんだと思う、うん。
今は向かい合う時。
この緊張や、もしかしたら自分なのかもしれない。
…なんだろうね、こういうの。

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