
今日は語る会の日。
何を着ていこうか、考えていなかった。
前なら、前日からどう見られるかをすごく気にしていただろう。
多分、美容室にも行っていたと思う。
暑いし、何しても崩れるから。
そう思った。
そういうことにした。
うちの会社は夏のお休みが少し長め。
その油断もあるかもしれない。
昼間はゆっくり過ごした。
結局服は薄手のデニムのサラッとワンピースにした。
なんとなく、それでいいと思った。
髪も束ねただけ。
お化粧も薄く。
見られること。
見せること。
似ているけど、全然違う。
そんなことを、思った。
トークの会場はすぐに分かった。
「こちらです」
相変わらずの爽やか君ね、高瀬さんは。
柚葉が気にしてるのもわかる気がする。
中に入ると、知っている方、話だけは聞いたことのある方、そして、和菓子屋さんの女将さんもいた。
(女将さん、喜代子さんて言うのね)
座るところに名前が置いてあった。
そばへ行って、ご挨拶をする。
「そのお洋服、あなたらしくていいわね」
そして微笑んでくれた。
気持ちがふわっとした。
中原さんが居た。
目が合った、しっかりと。
もっと頼りなさそうな人じゃなかったかしら?
背筋も少し伸びているような。
一回り大きく見えた。
私、顔が緩んだかも。
瞬きをして顔を戻した。
でも、つい、目で追いたくなる。
少し油断し過ぎかな。
女将さんと目があった。
微笑んでいた。
……なんか、照れくさくなった。
会は順調に進んでいた。
前なら、積極的に話さなくちゃ、なんて思っていたかもしれない。
でも、今日は、皆さんのお話を聞いていたい気分だった。
笑える昔ばなし。
このお祭りの成り立ち、考え方 。
なるほどなって思うこともたくさんあった。
気がついたら少し身を乗り出して聞いていた。
不穏な空気が一瞬流れた。
中原さんのお父様の話?
中原さんが頭を下げていた。
息が苦しくなった。
視線を少し逸らしたかった。
喜代子さんが声をかけて、すぐに場が和んだ。
私の知らない世界がある。
私の知らないところで、色々なことがあるんだろうなぁと思った。
まっすぐに頭を下げていた。
その姿が焼き付いていていた。
会も無事に終わった。
みなさん、中原さんのところへ、ご挨拶に向かう。
その波が引くまで、バッグの中身を片付けるふりをしていた。
喜代子さんが小さく手を降ってくれた。
小さく振って、頭を下げて応えた。
今日は、二言、三言しか発言しなかった。
でも、今までよりも充実した気持ち。
いつも、感覚がわからなくなるくらい握っていた左手が痛くなかった。
手のひらに爪の跡もない。
会場から出ると、ふわっと風が流れていた。
中原さんが背伸びをしているのを見かけた。
声をかけた。
「お疲れさまでした」
少し声が高くなっていたかもしれない。
眺めていきませんか、この祭り
一緒に見る
それが、自然だと思った。
また、顔が緩んだ。

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