もう一つの夏祭り 八ヶ月おまけ

ジュー、ジュー。
カシャー、カシャー。

今年の祭りも、俺の担当は焼きそば。
毎年これ。誰にも譲る気はない。

普段は商店街でラーメン屋をやってるけど、
もう息子に任せたから、別にやることもない。

でも、なんとなく。
これだけは引き受けてる。
引き受けてるうちに──誰にも渡したくなくなった。

朝からキャベツを、ザクザク、ザクザク。
大きな箱に、山盛り。
これだけでも、結構、腕にくる。

1キロの焼きそばの袋を台にのせる。
ドン。
1袋じゃ済まない。いくつも積む。

毎年、いろんな人が買いに来る。
ぼーっとしてたら、
今ひとつパッとしない男が、綺麗な奥さんを連れてきた。

思わず声をかけた。

「奥さん、焼きそば美味しいよ!」

旦那は黙ったままか。
大丈夫かよ、お前。

「一つ、買いますか?」

控えめな奥さんだねぇ。
綺麗な人は、言葉まで綺麗だ。

……なんかわからないけど、いいと思った。
こんな夫婦がいても、いいだろう。

少し、おまけした。

透明なパックに、アツアツの焼きそばを盛る。
結構、手が熱い。

今回は少し多め。
奥さんが綺麗だから?
違う、なんかいいんだ、この二人。

ちょっと多めのつもりが、結構多めになった。

まあ、祭りだ。
そのぐらい、いいだろう。

山盛りの焼きそばに、紅しょうがを添えて、
輪ゴムでパチンと止める。
割り箸と一緒に、ビニール袋へ。

──なんでだろな、
後ろ姿を見送ってしまった。

……って、こんなことしてる場合じゃないな。

しっかり儲けて、
帰りにはケーキでも買ってってやるか。

それにしても、
今年のお囃子はちょっと調子外れだなぁ。

誰だっけ。角のばあさんか。
まあ、しょうがないか。

「そこの奥さん! 焼きそば、美味しいよー!」

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