
ジュー、ジュー。
カシャー、カシャー。
今年の祭りも、俺の担当は焼きそば。
毎年これ。誰にも譲る気はない。
普段は商店街でラーメン屋をやってるけど、
もう息子に任せたから、別にやることもない。
でも、なんとなく。
これだけは引き受けてる。
引き受けてるうちに──誰にも渡したくなくなった。
朝からキャベツを、ザクザク、ザクザク。
大きな箱に、山盛り。
これだけでも、結構、腕にくる。
1キロの焼きそばの袋を台にのせる。
ドン。
1袋じゃ済まない。いくつも積む。
毎年、いろんな人が買いに来る。
ぼーっとしてたら、
今ひとつパッとしない男が、綺麗な奥さんを連れてきた。
思わず声をかけた。
「奥さん、焼きそば美味しいよ!」
旦那は黙ったままか。
大丈夫かよ、お前。
「一つ、買いますか?」
控えめな奥さんだねぇ。
綺麗な人は、言葉まで綺麗だ。
……なんかわからないけど、いいと思った。
こんな夫婦がいても、いいだろう。
少し、おまけした。
透明なパックに、アツアツの焼きそばを盛る。
結構、手が熱い。
今回は少し多め。
奥さんが綺麗だから?
違う、なんかいいんだ、この二人。
ちょっと多めのつもりが、結構多めになった。
まあ、祭りだ。
そのぐらい、いいだろう。
山盛りの焼きそばに、紅しょうがを添えて、
輪ゴムでパチンと止める。
割り箸と一緒に、ビニール袋へ。
──なんでだろな、
後ろ姿を見送ってしまった。
……って、こんなことしてる場合じゃないな。
しっかり儲けて、
帰りにはケーキでも買ってってやるか。
それにしても、
今年のお囃子はちょっと調子外れだなぁ。
誰だっけ。角のばあさんか。
まあ、しょうがないか。
「そこの奥さん! 焼きそば、美味しいよー!」

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