八ヶ月

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もう一つの夏祭り 八ヶ月おまけ

ジュー、ジュー。カシャー、カシャー。今年の祭りも、俺の担当は焼きそば。毎年これ。誰にも譲る気はない。普段は商店街でラーメン屋をやってるけど、もう息子に任せたから、別にやることもない。でも、なんとなく。これだけは引き受けてる。引き受けてるうち...
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【麻衣編】第三二話 水風船の夜

「ここの高台から、よく見えるんですよ」神社の石段に、ふたり並んで腰を下ろした。石が、じんわりと肌を冷やす。熱を持った空気の中で、それだけが少し違っていた。屋台の明かり。人の流れ。向こうには、やぐらも見える。お囃子の音が、風に乗って遠くから聞...
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【徹編】第三二話 夜の甘さに触れた日

「ここの高台から、よく見えるんですよ」神社の石段に、ふたり並んで腰を下ろした。石が、じんわりと肌を冷やす。熱を持った空気の中で、それだけが少し違っていた。屋台の明かり。人の流れ。向こうには、やぐらも見える。お囃子の音が、風に乗って遠くから聞...
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【麻衣編】第三一話 見せることと、見られること

今日は語る会の日。何を着ていこうか、考えていなかった。前なら、前日からどう見られるかをすごく気にしていただろう。多分、美容室にも行っていたと思う。暑いし、何しても崩れるから。そう思った。そういうことにした。うちの会社は夏のお休みが少し長め。...
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【徹編】第三一話 この場所で、ちゃんと息ができる

テーブルの上には企画書。夏祭り企画――地元の女性経営者と語る、夏祭りとこれからの街。それを見たとき、もっと重い気持ちになるかと思った。夕べは、思ったよりも眠れた。取材や企画に関わると、だいたい本番の前の日は眠れなくて、食べても味もしなくて。...
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【麻衣編】第三十話 塩素の匂いとあの声と

朝起きた。部屋の中は、もわもわした空気。床を歩くと、湿気で足裏が軽く吸い付いた。エアコンを軽くつける。会社も、お盆休み。みんな、元気かしら。スタッフの顔が浮かぶ。昨夜のグループライン。にぎやかだったな。……口元が、少し緩んだ。冷蔵庫を開ける...
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【徹編】第三十話 いつもに、風が混じっていた

昼前。部屋の空気は、ぬるかった。やる気のない扇風機が、カタカタと音を立てて回っている。風も、光も、閉じ込めたままの部屋。キーボードには、なぜか触れなかった。何も打たずに、時間だけが過ぎていく。昨日は、あれだけ書けたのに。アイスを食べてみたり...
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【麻衣編】第二九話 冷茶の香りと夏の影

久しぶりのおやすみ。少しだけ、ゆっくり起きた。 暑かったから、夜中に起きちゃったんだけどね。 カーテンを開ける。シャーっという、勢いのいい音。 スルスルと窓を開けると、もわーっとした空気が入ってきて、顔を背けた。 今日はだめね。慌てて、もう...
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【徹編】第二九 話手が、震えなかった

《特別なことは何もなかった。でも、たぶん今日は少しだけ、違っていた。自分でも理由はわからないけど。》朝、起きて顔を洗う。水の温度が、昨日よりもはっきり分かる!なんて言えたらよかった。でも、よくわからなかった。僕は──何を期待していたんだろう...
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【麻衣編】第二八話 時間のかかる美味しさ 

《朝の冷たいお茶。時間をかけて滲み出したその味は、少しだけ背筋を伸ばしてくれる。職場の熱量に混ざりきれず、足を向けたいつものカフェ。誰も悪くない、でも、自分の居場所が少しぼやける朝。焦らなくていい、急がなくていい。そんな言葉が、ゆっくりと体...