
久しぶりのおやすみ。
少しだけ、ゆっくり起きた。
暑かったから、夜中に起きちゃったんだけどね。
カーテンを開ける。
シャーっという、勢いのいい音。
スルスルと窓を開けると、
もわーっとした空気が入ってきて、顔を背けた。
今日はだめね。
慌てて、もう一度窓を閉めた。
いろんなことを任せた。
そしたら、いろんなものがなくなった。
ここに何を入れたらいいのかは、まだわからない。
もちろん、それが寂しさじゃないことは分かってる。
ただの、空白。
冷蔵庫へ行って、昨日仕込んだ冷茶を飲む。
この頃のお気に入り。
冷たい。
冷たいだけじゃない。
味がはっきりわかる。
香りが、いつもより立っている。
……お茶っ葉が違うからかな。
寝起きのだるさはある。
でも、普段より一歩目がすっと出る。
身だしなみを整える。
髪をとかす。
ブラシがストンと落ちる。
ファンデーションは薄く。
目は少し丁寧に。
でも、マスカラはいいや。
口紅は薄く、リップで。
おやすみなのに、なぜか整えたくなる。
見せるためじゃなくて、気分がいいから。
暑いけど、せっかくだから少しだけ外出。
肌がチリチリするような日の光。
日傘はさしてるけど、道路の照り返しが眩しい。
靴から、道路の熱が上がってくる。
息を吸うと、それだけで体温が上がる。
これはだめ!
ショッピングモールに入った。
袖口や襟元から、冷たい風がいきなり入ってきた。
ブルブルッと震える。
深呼吸をする。
肺まで冷たくなる。
そこから、全身に涼しさが広がる。
「はぁーっ」
硬い床を歩く音が、少し鈍く聞こえる。
まだ体の中に、熱がある。
アイスを買う。
たくさんの色が、四角い箱の中に綺麗に並んでいる。
店員さんが、丸い大きなスプーンのようなもので、
少し硬めのアイスをすくい取る。
お気に入りのラズベリー。
今日は、バニラと重ねる。
重ねた丸いアイスから、指先に冷たい空気が降りてくる。
そのまま急いで、外の日影のベンチへ。
外で食べたかった。
舌で一舐め。
冷たくて、舌が一瞬逃げた。
甘さがあとからきた。
バニラの香りが、舌の上に溶けていく。
いつもより、美味しい。
今までも……味はあった。
でも、何かを考えていた。
プラン、クライアント、見られ方。
食べてたけど、食べてなかった。
そんなことを考えた。
風が熱い。
日差しに照らされた木の葉の黒い影が、遅れて揺れている。
溶けるアイスを食べながら、葉っぱの影を見ていた。
ゆらゆら、ゆらゆら。
自分の影を見る。
手を動かすと、同じタイミングで手を振り返す。
ずっと、そこに居たんだよね。
そのまま、影と一緒に帰ってきた。
部屋に入る。
汗を拭う。
ご当地タオル。
仕事でデザインしたもの。
ふわふわだったけど、何年も使っていたらゴワゴワになった。
でも、それが気持ちよくて、柔軟剤は使ってない。
お化粧を落とす。
肌が息を吹き返した。
ソファに深く寄りかかる。
エアコンつけておいたから、ソファがひんやりしてる。
冷茶を注いで、一口。
スマホが震えた。
中原さん。
来るかなって、思ってた。
目を閉じて、静かに出る。
落ち着いた声。
この前とは、少し違う気がした。
心臓は早くならなかった。
力を抜いていていい気がした。
企画のご挨拶。
企画は午後からのスタート。
最後まで、落ち着いた声だったなぁ。
夏祭りかぁ。
午後の日差しに照らされていたグラス。
水滴が、連なって流れた。

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