
──創作大賞が熱いですね。
書くということには、どうしても「比べる」がついてきます。
誰かに届けたい、と思って書いたはずなのに、
いつの間にか──
どれだけ届いたか、どう評価されたか、どのくらい数字が出たか。
気づかないうちに、目的がすり替わってしまう。
それでも、「2」という数字が、書くことを後押ししてくれる日がある。
そんなふうにしか、続けられない時もある。
この話は、ちょうど今、創作と向き合っているあなたへ。
ブログのアクセスが、まったく増えない。
頬杖をついて右の人差し指は机をトントンと叩いていた。
「ふーっ」
なんのため息なのか、自分でもわからなかった。
絶望しているわけではないし、自分を見捨てているわけでもない。
ただ、「届いていない」という事実だけが、静かに、じわじわと心に染みてくる。
派手な痛みじゃないけれど、地味に効いてくる。
肩が痛いのは、歳のせいなのか、読まれないダメージなのか……。
連載も決まった。
書き続けなきゃいけないのは分かってる。
でも、気分が上がらない。
気分で仕事をするな――
そんなことを、若い頃によく言われた。
今、思い出すことでもないだろうに。
でも、確かにそうだ。
書くってことは、気分じゃ続かない。
僕の中では、「書く」はいつも、覚悟が要る。
書くことと、届けること。
それはまったく別の作業で。
ときどき、途方に暮れる。
ランキングを開く。なんとなく、癖みたいなものだ。
カチャカチャ、という音が日課になっている。
もちろん、期待なんてしていない。
……していない、つもりだ。
でも、万が一どこかに――なんて思ってしまう。
そういう自分が、ちょっと嫌だ。
だけど、それでも。これは、やめられない。
目に入ったのは、作家仲間――だと思う。
もう連絡は取ってないから、確かじゃないけど。
この文体、あの温度。間違いない。
一緒にやっていたころもあった。
今では、上位にいる。すごいな。
しばらく画面を眺めていた。
焦点は、合っていなかった。
勝てる気がしない。
文章の勝負なんて、存在しない。
……分かってるのに、比べてしまう。
比べれば、それはそれで惨めになる。
今まで人目に晒してきた文章を、全部、焼き捨てたくなる。
やらなきゃいいのに。
人って、負けてるって分かってても、比べてしまうんだ。
意味なんてない、と思いたいのに。
意味を求めてしまう。
誰かが、読んでくれることに。
缶コーヒーを取りに行く。
ふたを開ける音が、静かな部屋に落ちた。
午後の光のなか、ただ、座っていた。
参ったね。
でも、しょうがない。
こういうものは、続けることと、運。
それだけだ。
そういうことにしておく。
何もできないまま、昼が終わっていった。
時間だけはある。
時間がある、それだけ。
ただ、ぼんやりしていた。
何かを考えていたような、
何も考えていなかったような。
そういえば、最近読んだ雑誌に
「ブログで100万円」なんて書いてあったけど。
……関係ないか。
僕は、何がしたいんだろう。
お金が欲しいのか。
認められたいのか。
書きたいのか。
書きたい──
というほどでも、ないのかもしれない。
でも、書きたい。それは……ある。
自分でも、それくらいは分かってる。
気づけば、夜になっていた。
何の音もしない。車も通らない。
こんな夜に限って、妙に静かだ。
アクセス解析を開く。
どうせ0だろうと思いながら、カチャカチャ。
いつもの仕草。
――“2”
目を細める。
間違いかと思った。
少しだけ前のめりになって、画面を覗き込む。
でも、確かに“2”。
「なるほどねぇ」
何が“なるほど”なのか、自分でもわからなかった。
でも、なぜか口に出ていた。
ほんとうに、それだけ。
でも、誰かが、そこに来た。
僕のページを開いた。
なんなら、読んだかもしれない。
読んでなくてもいい。
来てくれただけでも、いい。
たった“2”なのに。
こんなにありがたいって思ってしまうの、
どうなんだろう。
缶コーヒーを飲み干す。
ぬるくなっていた。
苦味が、口の中に広がる。
残り少ないコーヒーのチャポチャポとした重さが手に伝わってくる。
「……また、書くしかないんだよな」
つぶやいた、たぶん自分に。
「お前はやればできるんだから」
誰かに言われた気がした。
親だったか、先生だったか、先輩だったか――
もう、忘れた。
たぶん、いろんな人に言われてきた。
人は、だいたいやればできる。
じゃあ、なぜやらないのか。
――きっと、“できない”と思ってるから。
僕は、どうだろう。
――もう、書けないかもしれない。
ずっと、そう思ってた。
でも、書いた。
書けた。
書けるってことは、分かってる。
自分の中の奥から、言葉が流れてくる。……あの感じ。
――全部、自分の中にあるじゃないか。
どこかで、よく聞くセリフ。
だけど……今は、それしか思い浮かばなかった。
立ち上がって、伸びをした。
椅子がキィと鳴る。
そのまま、外に出る。
大きく息を吸った。
両腕を伸ばし、胸を開く。
……そうだよ。
書けたんだよ。
これからも書けるか?
そう聞かれたら、分からない。
自信なんて、ない。
あったら、たぶん別の場所にいる。
こんなところじゃない。
でも、向かい合っていく。
それだけは決めた。
また、比べてしまうだろう。
それが、僕だ。
事務所に戻る。
デスクの上の雑誌に目をやる。
僕が書いた、麻衣さんの記事。
――なんだろう。
僕が今、折れたら。
この人にも、なんだか嘘をつくみたいで、嫌だ。
ただの気のせいかもしれないけど。
それでも、嫌だった。

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