2025-06

八ヶ月

【徹編】第七話 取材という日

《久しぶりの取材。ただの仕事のはずだったのに、言葉にできない何かが、ずっと引っかかっていた。》お情けの仕事か…朝から、なんとなく情けなさが胸に残っていた。ボイスレコーダー、取材ノート、そしてボールペンを鞄に詰める。万年筆もあったけれど、今日...
八ヶ月

【麻衣編】第六話 この静けさの中で

《一人でも大丈夫なはずだった》夕方のオレンジ色に、ピンクが混ざったような空は、少しだけ寂しい感じがした。いろいろ考えながら、帰り道を歩いた。もちろん、クレープは美味しかった。けれど甘さの余韻が消えたあとに残ったのは、なんとも言えない静けさだ...
八ヶ月

【徹編】第六話 お疲れさまが言えない日

《会いたくないわけじゃない。ただ、今の自分を説明する言葉が見つからなかったんだ》夕方、たまたま用事があって、かつて勤めていた会社のそばまで来た。オフィス街の外れにある、少し古びたビル。先日も取材の打ち合わせで来たばかり。自分が通っていた場所...
八ヶ月

【麻衣編】第五話 刺さったままの言葉

《その言葉だけは、どこかに残ってしまった。》いよいよ明日は、取材。別にいつもの自分でいいはずなのに、「どう見られるか」が少し気になる。自分をよく見せたい。それって当たり前のことだと思う。でも、それは“自分”なんだろうか――ふと、そんな感覚が...
八ヶ月

【徹編】第五話 取材という名の怖さ

《ちゃんとしたいと思うたびに、僕は“準備のための準備”に手を伸ばしてしまう。》「取材か……」ため息まじりにそんな言葉が出る。取材そのものはそんなに大変じゃないと思う。たまに、結構大変って思うときもある。取材って、そんなもの。別に、何か特別な...
八ヶ月

【麻衣編】第四話 がんばれた日の夜

《がんばったはずなのに、どうして…》夜のオフィスは静かだった。時計を見れば、もう9時を回っている。窓の外には、ちらほらとビルの灯り。街はまだ完全には眠っていないけれど、このフロアだけは、ひと足先に深夜に片足を突っ込んでいた。「今日は頑張れた...
八ヶ月

【徹編】第四話 苦いだけの時間

《特別なことは、今日もきっと起きない。……起こさないようにしているだけかもしれない。》夕べは寝たのか寝ないのかよくわからない夜だった。明け方の新聞配達のバイクの音でソファーに座って、そのままずっとそこにいた。いつものカフェ。……いや、“喫茶...
八ヶ月

【麻衣編】第三話 評価の先にあるもの

《嬉しいけど、でも…》一日の滑り出しは何も問題がなかった。「いやいやいやいや、すごく良かったです。こちらとしては大満足です!」クライアントは自分の部下の肩をバシバシ叩きながら、ずっと笑っていた。クライアントの言葉に、麻衣は笑顔で頷いた。でも...
八ヶ月

【徹編】第三話 取材という言葉

《人と繋がりたかった。そして僕は今…》「取材?」それが驚きだったのか、緊張だったのか、自分でもよくわからない。肩に変な力が入って息が深く吸えない気がした。立っているのか、いないのか、足元がふわふわしている。物を書くのは、嫌いじゃない。でも、...
八ヶ月

【麻衣編】第二話 ルイボスティーの午後

《“もう恋愛はしなくていい”。ふと、そんな言葉が浮かぶ午後だった。ぬるくなったルイボスティーと、吹き込む風と、胸の中の小さな空白。ただそれだけの時間に、今日は少しだけ意味があった気がする。》いつものカフェ、いつもの椅子、いつものカップ。そし...