2025-06

八ヶ月

【徹編】第十二話 すれ違いのあとで

《誰にも見られていない時間。誰にも見られていない自分。書くことを諦めかけた男が、ある朝すれ違ったのは、ひとりの女性と、まぶしすぎる青空でした。》朝の散歩、というより……ただ、歩いていただけだった。目的があるわけじゃない。意味があったのかと訊...
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【麻衣編】第十一話 読みたくて、読めなくて

《見ないようにしてるだけで、本当は、もう気づいてるのかもしれない》夕方。雑誌社の人が来た。何かと思ったら、先日の原稿がもうできたとのこと。とても早いのね。すぐに見たい気もあるけれど、なんとなくそれを見ることが怖い気がした。「内容はこんな感じ...
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【徹編】第十一話 CDと弁当と晴れの音

《ホコリの中でキラキラしていたのは、CDと、少し昔の僕でした。》あれからずっと落ち着かない。何していいのか分からずに片付けを始めたら、収拾つかなくなった。「お疲れ様でーす!」後輩くんの、少し間の抜けた声がする。「おぉ、こっちだよ、こっち」ご...
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【徹編】第十話 ラブリーが流れた夜

《ラブリーが流れた夜― ひとりの部屋に、記憶が戻ってくる》今朝は、少し早く目が覚めた。再取材の予定があるからだろうか。まあ、多分、緊張してるんだろう。僕はそんなに強くもないし。肩書きのある自分として、慣れていたはずの取材。でも今は“フリーラ...
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【麻衣編】第十話「別世界」という言葉

《優しい言葉が、心の温度を奪っていくことってありますよね》今日は、再取材の日。話す内容はもうほとんど決まってるし、原稿もメールで途中まで見せてもらっている。イメージ通りだった。私の言葉が、ちゃんと文字になっていて、少し、うれしかった、うん。...
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【麻衣編】第九話 いつも通りに

《ふと浮かんでしまった「あの人の顔」に、心が少しだけ揺れていた》取材が終わって、また“いつもの日常”が戻ってきた。オフィスの空気も、通勤路の景色も、スタッフとのやりとりも——全部、変わらない“いつもの感じ”。でも、少しだけ違ったのは、スマホ...
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【徹編】第九話 乗り遅れてきた人生に、小さくうなずく日

《誰にも言わないまま、それでも僕は…》朝はコンビニへ行った。ドアの「ピンポーン」で少しだけ身体が反応した。思ったより、自分が緊張していたみたいだ。缶コーヒーを買うついでにビジネス雑誌を買った。特集のタイトルは「伝わる聞き方・話し方」なるほど...
八ヶ月

【麻衣編】第八話 その名前を見た日

《朝ごはんの湯気にほっとした日。ふいにスマホに表示された名前が、思っていたより、自分の中に残っていた。》朝7時。今週は、特に忙しくない。今朝は少しゆっくりの朝。朝ごはんを作ったのは、いつぶりだろう。卵焼き、お新香、お味噌汁。白いご飯は昨夜セ...
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【徹編】第八話 頑張ったところで、ね

《頑張れないのか、頑張り方を忘れたのか…》今朝は、起きるのがしんどかった。重いというより、だるさが残っていた。布団から出るのも、本当にきつい。たいした距離を歩いたわけでもないのに、ふくらはぎが痛い。緊張していたせいだろう。気を張っていた分、...
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【麻衣編】第七話 取材の日

《「こうすれば、うまくいくはず」そう信じて、私たちは“理想の自分”を繕う。だけど、本当にそれでよかったのかな…》今日は、申し込まれていた取材の日。朝から、どこか落ち着かない。“自立した女性”かつて自分が目指したその言葉が、今日は“取材される...